天体・星空撮影の際はなるべく光害の少ない場所で撮影したいが、市街地のある方向にカメラを向けると光害の影響で空が白~黄色に写ってしまう。 光害の少ない撮影地を事前に調べるのに役立つツールとして、実測に基づいた高精度なLight pollution mapという光害マップサイトがある。この光害マップの使い方について情報をまとめたので紹介する。また実際に過去に撮影した星空写真と比較して、本マップの有用性を検証する。
目次
Light pollution mapの使い方と用語説明
Light pollution mapのサイトにアクセスすると、以下のような画面が表示される。
マップ上で任意の場所を左クリックすることでその場所の天頂部輝度情報を確認できる。その情報をもとにさらに地図上でマウスをドラッグ・スクロールして光害の少ない撮影地候補を探すとよい。
右上のメニューの「Map Layers」の「Overlay」プルダウンメニューからは光害マップを選択できる。「VIIRS」と「World Atlas 2015」を選択できるが、デフォルトでは夜空の光害を予測する最もらしいマップである「World Atlas 2015」が設定されている。
VIIRSについて
「VIIRS」はアメリカが運用している気象衛星「Suomi National Polar-orbiting Partnership (NPP)」の観測機器である「Visible Infrared Imager Radiometer Suite」(可視赤外撮像放射計)から取得したデータで作成したマップとなる。
World Atlas 2015について
「World Atlas 2015」は”The New World Atlas of Artificial Sky Brightness“という論文によって作られたマップである。この論文によれば、地上から見える夜空の明るさは人工衛星の観測データのみでは不十分であり、地上から出た光が空で散乱する(人工衛星に届かない)光を考慮する必要があるため、VIIRSのDNBセンサーから取得した低照度画像データと、各地で設置した測定器SQM(後述)による夜空の明るさデータを使用し、さらにUpward emission functionという名前で定義された光放射関数で補正することで観測場所の輝度を計算して地図を作っているとのこと。
参考までに、World Atlas 2015による予測天頂総空の輝度B (cd/m2)は以下の式で表される。
B = SN + (WaA + WbB + WcC)(1 + dh)
ここでA、B、C は、それぞれ都市から上向きに放射されると仮定した3つの光強度角度分布(A:ランベルト分布 、B:水平線上の低角度でピーク強度を持つ関数、C:水平線から 30° 上の中間角度でピークを持つ関数 )を示しており、このA、B、CそれぞれにWa、Wb、Wcという適合重みをかけ、Duriscoe’s modelによって推定された自然の空の明るさ(N)、輝度と比較した SQM 放射輝度の違いを説明する倍率(S)、時間要因で変化する項(dH)を足し合わせたモデルとなっている。この輝度Bを放射輝度 (magSQM/arcsec2) に変換し、実測データに最も適合するように最適化を行っているようである。詳細は以下の文献を参照されたい。
・文献:The new world atlas of artificial night sky brightness
・著者:Fabio Falchi, Pierantonio Cinzano, Dan Duriscoe, Christopher C. M. Kyba, Christopher D. Elvidge, Kimberly Baugh, Boris A. Portnov, Nataliya A. Rybnikova, and Riccardo Furgoni
・出版誌:Science Advances (Open Access, CC BY-NC)
・出版日:2016年6月10日
マップ上の色分けについて
マップは9つのクラスに分かれて色付けされている。各色の定義を図2に示す。
SQMについて
SQMはUnihedron社が製作している計測機器「SKY QUALITY METER」の略称であり、夜空の暗度を平方秒角あたりの等級で測定する。SQMの受光素子としてはシリコンフォトダイオード単素子 TSL237(ams AG、Premstaetten) を使っており[1]、AB 等級システムで校正されている。「SQM」は約80°の見かけ視界で空のおおまかなダークネス測定を行い、レンズ付きの「SQM-L」ではセンサーの視野を20°に狭めている。
例として、図3にLight pollution map上の神奈川県三浦半島 城ヶ島での明るさ情報を示す。SQMの計測値は「20.81」となっており、20.81等級の星の光が平方秒角(1″)に広がっていることを意味する。星空のSQM値は17~22の値を取る。理想的な空(大気の吸収もなく人工光も存在しない)のSQM値は22.0となり、東京近郊など大都市圏の最も明るい場所でのSQM値は17前後となる。
実際の撮影結果とLight Pollution Mapを比較
上述したようにLight pollution mapはSQMによる測定データを使用している。SQMは約80°の視野角範囲での測定を単素子で行っており、雲や恒星・天の川による明るさの分離ができないことから、あくまで指標の目安の一つとしてとらえる必要がある。
一方でデジタルカメラは、あらかじめ明るさの分かっている標準星で比測定を行うため、測定ごとのずれの影響を受けずまた、画像から天候が確認できるため、測定後に結果の検証が可能である。
ここでは、実際にデジタルカメラで撮影した星空とLight pollution mapで、同じ場所での明るさの様子を比較してみる。
栃木県 奥日光 湯ノ湖
Light pollution map上、奥日光湯ノ湖での明るさ情報を図4-1に示す。
この場所で実際に撮影した写真を図4-2~図4-5に示す(撮影の詳細についてはこちらに記載)。南方面は日光市街(もしくは宇都宮)方面の光害が大きいことがわかる。天の川は秋の季節にみられる淡い部分まで確認できる。また天頂部はM31アンドロメダ銀河も目視で確認できる。
千葉県御宿町 大波月海岸
Light pollution map上、御宿町大波月海岸での明るさ情報を図5-1に示す。
この場所で実際に撮影した写真を図5-2~図5-5に示す(撮影の詳細についてはこちら)。南東~南方面は漁船の光が写り込んでしまうが、陸地がないため暗く天の川は肉眼でも良く見える。ただし湿度が高いためか水平付近は星が見えづらい。南西方向は房総半島が視界に入る範囲なので少し明るいかもしれない。
長野県 唐松岳山頂
Light pollution map上、唐松岳山頂での明るさ情報を図6-1に示す。
この場所で実際に撮影した写真を図6-2~図6-5に示す(撮影の詳細についてはこちら)。天頂方向は暗く星もクリアに見えるが、山頂は非常に視界が開けているため、富山・長野市街などの光害が目立つ。ただしこの日は雲が多かったため余計に光害が目立っていたかもしれない。
北海道 旭岳
Light pollution map上、旭岳山頂付近での明るさ情報を図7-1に示す。
この場所で実際に撮影した写真を図7-2~図7-5に示す(撮影の詳細はこちら)。天頂方向は非常に暗く星もクリアに見える。また南方向についても、開けた場所では遠くの市街の光害が若干確認できるが概ね暗い夜空であることがわかる。特にテント場付近では周囲が山に囲まれており非常に暗い。体感では過去に訪問した撮影地の中では最も暗い場所である。Light pollution map上でもclass2の評価となっており、体感と同様の評価となっており非常に良い星空撮影地であることがわかる。
まとめ
光害マップLight Pollution mapの使い方について情報をまとめた。またLight Pollution mapと実際に撮影した星空写真と比較して本マップの有用性を検証した。
上述の通り、Light Pollution map上では暗い順に旭岳→唐松岳→奥日光→大波月海岸となっている。体感でも、天頂部の夜空の暗さで比較するLight Pollution mapが示すとおりの順番であると感じたので、信頼性の高い光害マップであることが確認できる。ただし水平近くの光害の明るさを考慮すると、体感では旭岳→奥日光→大波月海岸→唐松岳と感じた(唐松岳は撮影日が雲が多かった日だったため光害の影響が目立ってしまっていたことも大きい)。また周辺部はすべて同じSQM値であることから街灯などの情報はマップ上には反映されていないと思われること、天候や撮る対象によっても結果は変わってくることには注意が必要である。